Wednesday, March 15, 2006

[勝間通信] 消えた友人の追憶

[農暦] 2月16日 [月齢] 15.1 十六夜月 [潮汐] 大潮 [勝間の天気] 快晴

一枚のはがきが届きました。大学時代の友人、アオキシンさんから個展の案内状です。彼が大学時代に人形劇部を立ち上げ、斬新なアイデアで見せてくれたビートルズの人形劇を、わたしは今でも思い浮かべることができます。今回の個展はタブローなのですが、多才な彼は本の装丁にも意欲的でした。

二週間ほど前に彼からメールが届きました。”こんなこともしているよ”と記され、添付されたファイルは響リュウさんとおっしゃる戯曲家の作品をまとめた本の表紙でした。十年前に出版され、絶版になっていたのを復刻されたと思われます。ここに使われている、彼自身がシャッターをおしたモノクロ写真、写っているのは消えた我々の仲間の後ろ姿でした。

写真の主、愛称ピンさん、こよなく酒を愛し、二日酔いのまま仕事を難なくこなしていました。建築のデザイナーだった彼が引く鉛筆の線をまねできる人はいませんでした。彼もまた多才な能力の持ち主でした。その彼が十年ほど前、明け方の湯河原海岸から姿を消しました。未だ消息はありません。友人たちが集まって何度かの捜索も湯河原で行われました。そのさい、東アジア世紀末研究会などという、勝手に旅をしようという私の北朝鮮の旅に同行していたピンさんです、彼の弟さんから、研究会の政治性を問われ、彼はもしや北朝鮮かと我々も真剣に考えたこともありました。

彼が我々の前から姿を消した数年前のことだったと思います。東アジア世紀末研究会の仲間たちと江ノ島にでかけました。そこでのピンさんは、島の参道沿いの店を覗いては徳利を一本空け、次の店へという按排でした。そして参道から島の裏の海岸の岩場へ。表紙の写真はここで撮影されたものです。夕刻の、少し波立った岩場で、彼は我々を背に海を眺めていました。アオキシンさんが捕らえた瞬間でした。

シンさんが、この本の表紙にこの写真を使ったワケはまだお聞きしていません。かなり古い写真にもかかわらず、この一枚を引っ張り出してきたのはなぜだったのでしょう。知りたいと思います。

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